あれはいまから36万、いや…2ヶ月前だったか。まあいい。山形県東根市に2011年4月に新設予定の小学校「さくらんぼ小学校」が、同人アダルトゲームサークル「私立さくらんぼ小学校」と同名であるとして、ちょっとした騒動となった。当初、校名は変えないとして強気に出ていた東根市であったが、結局は変更することになり、それをもって事態は収束したようである。
この騒動を巡ってネット上では様々な意見が飛び交った。どちらかといえばさくらんぼ小学校という名称に反対する意見が多かったのは間違いないだろう。面白おかしく好き勝手なことをいう人も多いのでまとめるのは難しいのだが、無理やり集約すればこんな感じになるのではないか。
実際には東根市は私立さくらんぼ小学校の存在を2009年末に把握していた(山形新聞「さくらんぼ小」校名変更へ 東根市、児童への影響を考慮(リンク切れ) 2010年9月9日)。さらに公立学校の名前が果物というのはおかしいという意見は以前からあがっていたようである(J-CASTニュース「さくらんぼ小の校名変更しないで」東根市教委に意見多数寄せられる 2010年9月13日)。それにも関わらずさくらんぼ小学校で押し通そうとしたからには、それなりの背景があったのだろう。
百聞は一見にしかず。そのあたりの事情を確認しようと現地を訪ねてみた。
当研究所から車で3時間強、山形県東根市へ。東根市へ入ると高速道路沿いにさくらんぼの看板が並び、さくらんぼを強くアピールしていることが伺える。ハンドルを握っているため写真は撮れなかったが。
東根市には東北縦貫道のインターチェンジのほか、山形空港と山形新幹線の停車駅がある。車でなければこのどちらかに降り立つことになるだろう。空港はまだ開いていないので、ひとまず駅に向かうことにした。その名もずばりさくらんぼ東根駅。ローマ字表記だとSakura"m"boなのか。またひとつ賢くなった。

さくらんぼ東根駅
だいたい、この駅が入っている建物の名前からして「さくらんぼタント館」である。本当にさくらんぼが好きだな。そういえば、こちらの表記はなぜかSakura"n"bo。

さくらんぼタント館
それどころか図書館までさくらんぼ。公共施設にさくらんぼと付けるのが東根市では当たり前らしい。ちなみに図書館はn派。

さくらんぼ図書館
改札口の近くにある温泉の看板。こちらはさくらんぼ東根温泉。もとは単に東根温泉と名乗っていたが、駅名にあわせて変更されたらしい。さくらんぼの里と付け加えることも忘れない。

さくらんぼ東根温泉
駅を出ると佐藤錦を開発した佐藤栄助翁の像が建つ。駅の周囲にはさくらんぼの木。右も左もさくらんぼで埋め尽くす勢い。

佐藤栄助翁と子供たち
栄作翁もこんな騒ぎになるとは夢にも思わなかっただろう。それにしても子供たち、妙に小さくないか。
もう既におなかがいっぱいになりそうなのだが、まだ旅は始まったばかりだ。次に空の玄関口、山形空港へと向かう。
さくらんぼ東根駅から10分ほどで山形空港に到着。つい先日の10月30日をもって小牧線と新千歳線が運休となり、残すは伊丹線が1日3往復、羽田線が1日1往復。そのせいかロビーにいるのは私だけ。

山形空港
空港は県全体の玄関口となるためか、東根市を強調するようなつくりではなく、米沢や山寺といった県内の観光名所をそつなく紹介するようになっている。それでも限られたスペースでさくらんぼのアピールを忘れない。

売店の案内
お菓子のプチジェリシェリーはまあいいとして、純米大吟醸なのにさくらんぼとはこれいかに。もちろん原材料にさくらんぼは入っていない。そして売店を経営するのは株式会社さくらんぼ。もはや訳がわからない。
誰もいない空港は気まずいので早々に立ち去る。こんどは街を見てみよう。
空港の南をぐるっと回って市街地へと入る。まずは喫茶店?の看板がお出迎え。

CAKE Cherry
まあ、東根市でなくてもこの名前は普通にありそうだ。しかし、あたりを見回すと無理やり感が漂う店舗がそこかしこに見られる。

チェリーフォレスト
このお店、この看板にチェリーフォレストとあるだけで店舗本体には何も書いていなかったりする。まだ開いていなかったので詳細はわからないが、主な商材はジェラートでさくらんぼ専売というわけではないようだ。
商材がさくらんぼかどうかは関係なく、とにかくさくらんぼと付けてしまうのが東根流。例えばこんな。

さくらんぼオート
車とさくらんぼにどういう関係があるかわからない。だが、こんなものはまだ序の口だ。

メガネのチェリー
だから眼鏡とさくらんぼにどういう関係が。まあ、さくらんぼ眼鏡よりはマシか。いや、そう考えている時点でなにかを失いつつある気がするぞ。ちなみに、薬局に使われているけやきは東根市の木だったりする。もちろん、市の花はさくらんぼ。

さくらんぼ英語教室
くどいようだが英語とさくらんぼにどういう関係が。もしかすると「さくらんぼ英語」という英語と似て異なる言語の教室なのかも。最後は無難に以下で締め。

さくらんぼタウン
ありがちといえばありがちか。でもいわき市にめひかりタウンとかあったら嫌だけどな。とはいえ、当研究所がある日立市にはさくらシティ日立があったから、あまり人のことはいえないかもしれない。
商業施設がこれだけさくらんぼ尽くしなのだから、賃貸住宅もさくらんぼ尽くしなのはもはや必然だろう。

コーポcherry一本木
きちんとさくらんぼのイラストが入っているのが心憎い。次いでもう一件。

チェリーブラッサムⅠ
ここまでくると私、堪忍袋の緒が切れました。ってそれはキュアブロッサム。東根市のさくらんぼは一輪の花どころかあちらこちらで開花中だけど。この建物だってⅠがあるからには少なくともⅡがあるのだろう。

メゾン シルエーラ
シルエーラとはスペイン語でプラムとかすもものことらしいのだが、イラストはどうみてもさくらんぼ。しかもプレートには東根市大字蟹沢とあるのに、右上に小さくさくらんぼ駅前1丁目の住所表示がある。どっちやねん。
探せばまだまだありそうだけど飽きたので止めた。とにかくどこもかしこももさくらんぼ。民間でさえこの有様なのだから、お役所関係に至っては推して知るべし。
駅と図書館が入っている建物がさくらんぼなら、それ以外の建物も負けていない。主に福祉および子育ての関連施設が入っている建物、その名もさくらんぼタントクルセンター。タントクルってなんだよ。

さくらんぼタントクルセンター
この写真を撮っていたら中から警備員が出てきてびっくりした。早朝だから無人だと思ったのに。
そして、さくらんぼ小学校の命名に多少は影響していると思われるさくらんぼ保育所。

さくらんぼ保育所
保育園では騒がれなかったのになんで小学校ではダメなんだと思うかもしれない。しかも民間経営ではなく市立(2012年4月から民営化予定)なのである。公立学校の名前として果物はおかしいという意見があることを最初に述べたが、保育所は受け入れられているようだ。
上の写真では保育所の名称が見えないので、はっきりわかる写真を載せておく。

許可なく立ち入りを禁ず
さくらんぼ保育園は陸上自衛隊神町駐屯地のすぐ近くにある。実は東根名産のさくらんぼから名前を取ったのではなくて、同期の桜の子供が集うからさくらんぼだったりして。そんなわけないか。それに、すぐ近くに同じ東根市立の神町保育所があるのに、なぜこちらだけさくらんぼ。
疑問を残しつつ、いよいよ本丸のさくらんぼ小学校へ。
さくらんぼ保育所から車で数分、問題の小学校へとやってきた。2011年春の開校にあわせて目下建設中。ざっと見た限りそれほど大きい学校というわけではなさそうだ。

さくらんぼ小学校 東側
おそらく手前が校門になるのだろう。右側の建物が体育館か。正面の建物は2階建だ。いまどきの小学校は3階建にしないのかな。

さくらんぼ小学校 西側
裏に回ってみると、似たような建物が3つ。高い建物にするよりは低い建物で数を増やすという方針らしい。このほうが建設費が安いのかな。まさか転落事故のダメージを抑えるとかいう理由ではなかろうな。

さくらんぼ小学校 南側
右の水色屋根の低い建物は屋内プールだろうか。こういうご時世だから外から見えないほうがいいのかもしれない。
体育館がさくらんぼの形とか、あちこちにさくらんぼのペイントとか変なギミックはなく、見た目は普通の小学校。もしかすると内部にはそういったものがあるのかもしれないが、侵入するわけにはいかないのでそのへんは未確認。
どこかに仮称でいいから校名が入ったものがないかと探してみたが、残念ながら見つからなかった。そんな中で見つけたのがこれ。

事業主
事業主のさくらんぼ東根学校PFIサービス株式会社ってちょっとやりすぎだろう。空港でみた株式会社さくらんぼもどうかと思ったが、向こうは観光客の目に入る可能性があるだけまだ理解できる。でもこっちは地元の限られた人間以外が目にする機会はそうないだろうから、さくらんぼを冠する意味があるとも思えない。
さらにややこしいことに、似て異なる企業、PFIさくらんぼ東根 学校給食サービス株式会社が存在する。とにかく、なにがなんでもさくらんぼを冠さないと気が済まないようだ。
さて、建設現場でさくらんぼ小学校の文字を見つけることができなかったが、さくらんぼ東根駅の案内板にはさくらんぼ小の文字がまだ残っていたりする。

さくらんぼ東根駅の案内板
左下にさくらんぼ小という文字があるのがわかるだろう。この案内板が設置された時点ではまだ仮称だったはずだが、ここまで自信たっぷりに書いてあるということは、当事者にとってこの騒ぎは本当に予想外だったのかもしれない。
そういえば今回は行かなかったけれど、出荷の中心となるであろう農協はもちろんJAさくらんぼひがしね。上の写真の右側にその名が見える。それしてもこの名前、ほかの作物を生産する人たちは反対しなかったのだろうか。客の立場から見ると、りんごとかラ・フランスとかが割を食っている気がするぞ。
少々面白おかしく脚色はしているものの、市内がさくらんぼ尽くしであることは紛れもない事実だ。なぜ小学校だけダメなのかという意見が出てくるのは当然であろう。その一方で、アダルトゲームサークルが存在しようがしまいが小学校に付けるべき名前ではないという意見ももっともだと思う。
どのように名付けるかは地元の方々が決めることで、外野がとやかくいうことではない。ただ、今回の訪問を通じて、目的(東根市のPR)と手段(建造物や施設の名前にさくらんぼを冠する)が逆転してしまっているのではという印象を受けた。
佐藤錦発祥の地でありながら知名度がいまひとつな東根市ならでのは悩みもあるのだろう。そこでさくらんぼをアピールする作戦に出たのだろうが、小学校に名前を付けたところで知名度向上に役立つのだろうか。そうではなくて市民の盛り上がりを図るのが目的だとしたら、それはそれで在校生や卒業生の代償が大きすぎる気がする。
まあ、無関係なよそ者からするとこんな具合に見えてることもあるということで。なにはともあれ、東根市がどんなところか確認できてよかった。疑問を感じたら自分自身の目で確かめることがいかに重要かあらためて肝に銘じることができた。
そうだな、次はこれを見ている奴にも付き合ってもらうよ。ってなにをだ。