スペランカー。その主人公はゲーム史上最弱として語り継がれている。膝の高さから落ちただけで死ぬとか、下り坂でジャンプすると死ぬとか、コウモリの糞に当たっただけで死ぬとか、とにかくよく死ぬクソゲーとして名高い。一方で一部の人たちからこよなく愛され、攻略方法を記したWebサイトがいくつも存在する。
さて、スペランカーをスペランカーたらしめるもうひとつの要素がある。カセット正面に取り付けられた発光ダイオード(Light Emitting Diode ; LED)だ。電源ONと同時に点灯するのはいいが、ゲームとはなんの関係もない。電源のON/OFFがわかるといっても、電源がONになっていればテレビに画面が出るわけで、これまた意味がない。この無意味なLEDがスペランカーのクソゲーぶりに彩りを添えているといって間違いない。

スペランカーのROMカセット(前面)

スペランカーのROMカセット(背面)
ファミコン版スペランカーの発売日は1985(昭和60)年12月7日。現在のように青色LEDは出回っておらず、当時入手できるLEDは赤から黄色、せいぜい黄緑色しかなかった。スペランカーに搭載されているのは、その中でも最も安価だったと思われる赤色LEDだ。
ファミコン版スペランカーが登場してから23年以上が経過した。その間、1993(平成5)年に窒化ガリウム(GaN)系の青色LEDが登場し、次いで緑色、白色と実用化していった。GaN系LEDは日亜化学工業や豊田合成といった日本企業が中心となって開発されたため、日本でLEDといえば青色や白色のみが語られることが多い。だが、その陰で赤色LEDも着々と進化し、当時の10倍以上の発光効率を誇るようになっているのである。
というわけで、スペランカーのLEDを最新の赤色LEDに交換してみよう。
まずはカセット分解する。カセットの横の溝から細めのマイナスドライバーを突っ込んでこじる。4本の爪のうち1本を折ってしまったが、なんとか分解することができた。まずは裏面側から見たところ。

ROMカセット内の基板(裏面)
基板中央、縦長に位置するのがIntel D2764A。64kbitのEPROMだ。その右、横長に位置するのがIntel D27256。こちらは256kbitのEPROM。右上の0.1μFのセラミックコンデンサはパスコンだろう。あとは中央上に220Ωの抵抗。これは例のLEDの電流制限抵抗だ。
カセットから外し、表面を見てみる。LED以外に部品はない。実にシンプルだ。

ROMカセット内の基板(表面)
この赤色LEDを外して、新しいLEDに付け替えるだけの簡単な工作だ。はんだごてを使ってLEDを外す。
取り外したLED。赤い樹脂に封入されたタイプだ。一般的な砲弾型ではなく、円筒形にモールドされている。表面には同心円状に溝が数本ある。光取出効率をあげるための工夫だろうか。

オリジナルのLED
これを準備したLEDに交換する。準備したLEDは砲弾型だったので、ヤスリで削って円筒形に加工し、耐水ペーパーとコンパウンドで表面を磨く。いまどきのLEDなので樹脂は透明だ。削りすぎて中のチップにダメージを与えないように注意する。

交換用LED(加工前)

交換用LED(加工後)
これをはんだ付けする。基板にアノードとカソードが書き込まれているので、そのとおりに取り付ければよい。カセットを閉じて工作終了。工作に要した時間はおよそ1時間というところか。
まずはファミコンにカセットを差し込んでみる。交換前後で比較してみよう。

電源投入前 LED交換前

電源投入前 LED交換後
交換後は樹脂が透明になったせいか、デザインに締まりがなくなったような気がする。でも、いまさら後には引けない。短絡とかはないと思うが、少し緊張しながら電源を入れる。

電源投入後 LED交換前(照明あり)

電源投入後 LED交換後(照明あり)
交換前のオリジナルのLEDに比べるとずいぶん明るい。だが、いまひとつインパクトに欠ける。そこで部屋の照明を消してみた。

電源投入後 LED交換前(照明なし)

電源投入後 LED交換後(照明なし)
どのくらい明るくなったかわかってもらえただろうか。これが23年間の技術の歩みの結果である。もちろん、ゲームとはなんの関係もない。むしろこの光がうっとうしくてゲームがやりにくいかもしれない。だが、それでこそスペランカーにふさわしい。ゲーム内容とは無関係のLED、それがスペランカーがスペランカーたる所以のひとつなのだから。
これだけではつまらないので、交換前後のLEDについて考察してみる。まず、両者の発光スペクトルを比べてみよう。

発光スペクトル
縦軸の強度は任意単位である。交換前後でLEDの出力が10倍以上異なるため(詳細は後述)、同じグラフで比較すると交換前のLEDのスペクトルが潰れてしまっている。その点はご容赦いただきたい。
交換前のLEDのピーク波長は699.0nm、交換後は631.6nmである。交換前のほうがスペクトル幅が広いことから、交換前のLEDの発光層は燐化ガリウム(GaP)で構成されていると推測される。逆に交換後のLEDは幅が狭く、おそらく発光層はアルミニウム・インジウム・ガリウム・燐化物(AlGaInP)から構成されていると思われる。
そりゃそうだ。スペランカーが発売された年にはまだAlGaInPを材料にしたLEDなんかなかったもんな。ドミナント波長は交換前が634.1nm、交換後が619.0nmである。色純度は交換前が94.6%、交換後が99.2%。スペクトル幅が広い交換前のLEDのほうが色純度が劣る。まあ当たり前か。
次は放射エネルギーの比較だ。2mA通電時、交換前のLEDは0.064mW、交換後は0.696mWだ。なんと10倍以上も違う。5mA通電時には、交換前が0.122mWに対して交換後が2.061mW。17倍近くになってしまう。これが23年の技術の差なのだ。
では、電気特性はどうだろうか。順方向に2mAを通電したとき、交換前のLEDの電圧は1.87V、交換後のLEDは1.77Vとなった。5mA通電時にはそれぞれ1.94V、1.83Vである。単純に考えると、より短波長の光、すなわちエネルギーが大きい光を放出する交換後のLEDのほうが順方向電圧が高くてもおかしくないのに、結果は逆である。つまり、交換後のLEDはより光電変換効率が高いということがいえる。これもやはり技術の進歩なのだろう。
ここまできて白状するが、私はスペランカーをプレイしたことは一度もない。発売当時、我が家にファミコンなんてものはなく、スペランカーに触れる機会などなかった。数年前、たまたま立ち寄ったゲーム屋でスペランカーを見つけ、なにかのネタにはなるだろうと確保しておいたものが、いまこうして使われているわけだ。

闇に光るデモ画面
今回もここまでやって、実は一回もコントローラを握っていなかったりする。上の写真もデモ画面だし。まあ、世の中には知ったとたんに面白くなくなってしまうことも往々にしてあるし、ネタはネタとして永遠に放置しておくのもありってことで。
いいオチが思いつかなかったので尻切れトンボ気味に終わる。