福島第一原発の事故が収束しそうにもないのでガイガーカウンターを購入してみた。露QUARTA-RAD社のRADEX RD1503という機種である。私が入手したのは仏NanoSense社を経由したものだが、中身は同じもののようだ。
さて、手に入れたまではいいのだが、こいつの測定値がどこまで正しいのかさっぱりわからない。メーカー(QUARTA-RAD社)のWebによると測定範囲と再現性は以下のとおりだ。
| Scale range ambiemt dose rate equivalent | µSv/h | 0.05 ... 9.99 |
| Reproducibility of indications (at confidential probability 0.95), where D is a dose rate in µS/h | % | 15+6/D |
私は英語が苦手なのでよくわからないけど、測定範囲(Scale range)は0.05µSv/hから9.99µSv/hで、再現性(Reproducibility of indications)が 15+6/D %(Dは線量率、単位はµSv/h)ということらしい。
文面通り受け止めると、空間線量率が9.99µSv/hのときの再現性は15.06%、10µSv/hでは15.6%、1µSv/hでは21%となるが、いくらなんでも再現性が15%とか21%ということはないだろう。それに、測定対象の強度が落ちるほど再現性があがるというのも解せない。
おそらく、いわゆる測定誤差が15%とか21%ということなのだろう。これなら値として妥当だし、強度が落ちるほど誤差が大きくなるという点でも納得できる。しかし、そう断言してよいのか自信がない。かといってメーカーに問い合わせるほどの度胸も語学力もない。
だったら信頼できる装置との比較をしてみればよいではないか。あまりありがたいことではないが、茨城県には多くの空間線量測定局が配置されている。さらに今回の原発事故を受けて、北茨城市、高萩市、大子町、鹿島港湾事務所に可般型モニタリングポストも設置中だ。これらは近づいて見学することができ、測定値も公開されている。
そんなわけで、茨城県北の空間線量測定局と可般型モニタリングポストに出向き、その近くの放射線量をRD1503で測定してみることにした。両者の値比を較すれば、どの程度の誤差があるかわかるだろう。
2011年6月11日の午後、雨がやんだのを見計らって、県北を中心に空間線量測定局巡りに出かけた。選んだ測定局は東海村石神、東海村豊岡、日立市久慈、日立市大沼、常陸太田市磯部、常陸太田市真弓、常陸太田市久米の7ヶ所。
これらの測定局のできるだけ近くで放射線量を測定し、その結果を公表されている値と比較する。測定方法は厳密に統一せず、RD1503を手に持ち、おおよそ地上から1mから1.2mの高さでの測定とした。また、測定値はふらつくので、1、2分待って最もよく出た数値を採用している。というわけで、かなりいい加減な測定であることを初めに断っておく。
なお、空間線量測定局の測定値の単位はnGy/h、RD1503の単位はµSv/hであるが、1nGy/h=0.001µSv/hとのことなので、比較時は単位の変換を忘れないように。
公表値:129nGy/h(12時30分)
RD1503測定値:0.21µSv/h(12時31分)

石神小学校内にある空間線量測定局。建物はすぐ前の道路からもよく見えるが、リアルタイムで放射線量が表示される電光掲示板を見るには校内に入る必要がある。ところが、このご時世で勝手に立ち入ろうものならたちまちお縄になりかねない。困ったものである。まあ、遠慮なく入らせてもらったが。RD1503の値は0.21µSv/hでほぼ安定しているが、測定局の値とはずいぶんと開きがある。はてさて。
公表値:123nGy/h(12時40分)
RD1503測定値:0.19µSv/h(12時45分)


豊岡の集落内にある測定局。ここは誰にも遠慮せずに近づくことができる。測定値は0.19µSv/hでほぼ安定。でもやっぱり測定局の値とはだいぶ違う。
公表値:186nGy/h(13時00分)
RD1503測定値:0.21µSv/h(12時59分)


久慈中学校の校庭の片隅にある。ここでは校内には立ち入らず、すぐ近くの路上で測定した。そのため、他の場所と比べるとだいぶ条件が違うかもしれない。特に学校が斜面に建っているため、RD1503の測定地点と測定局の高低差が大きい。
公表値:171nGy/h(13時20分)
RD1503測定値:0.33µSv/h(13時18分)


大沼小学校の校庭内の測定局。ここも学校の敷地内には入らず、少し離れた場所で測定。できればすぐ近くで測定したかったのだが、建物の前の道路は交通量が多いうえ歩道がなく危険なので、道路を隔てた場所で測定した。
そのせいかどうかわからないが、ここの測定値は他の場所に比べてやたらと高い。実は、これ以前に予備調査でこの場所を2回ほど訪問しており、そのときも0.3µSv/h前後と高い値を示していた。なぜこんなに高い値になるのかはわからない。また、測定値のふらつきが大きい場所でもある。
公表値:69nGy/h(13時50分)
RD1503測定値:0.18µSv/h(13時47分)


世矢小学校の中、それも敷地外からは見えない場所にある。申し訳ないが無断で入らせてもらった。測定局の値はかなり低いが、RD1503の測定値はそうでもない。値のふらつきはほとんどなく、0.18µSv/hで安定。
公表値:87nGy/h(14時00分)
RD1503測定値:0.14µSv/h(14時01分)


峰山中学校の校庭の片隅、里川の堤防の近くにある。堤防から降りていけば校庭を横切らずにアプローチ可能。でも面倒なので学校の中を通らせてもらった。ここでの測定値はそれなりに低いものの、値はやや不安定。堤防のすぐ近くという場所がよくないような気がする。根拠はないけど。
公表値:62nGy/h(14時30分)
RD1503測定値:0.17µSv/h(14時26分)


久米中学校の校舎の裏、駐車場の端のほうに設置されている。ここも勝手に入らせてもらった。RD1503の測定値は真弓と同じくらいだが、真弓に比べるとやや不安定。
これにて空間線量測定局巡りは終了。どういうわけか、どの測定局においてもRD1503のほうがずっと大きい値となる。測定局の値が低いところではRD1503も低めになる傾向があるものの、大小が逆転している箇所もある。
久米局の測定後、可搬型モニタリングポストを目指し大子町へ。原発事故さえなければさわやかな気分のドライブなのに。ああもう、腹が立つったらありゃしない。
茨城県内の可搬型モニタリングポストは北茨城市、高萩市、大子町、鹿島港湾事務所の4箇所。そのうち、鹿島港湾事務所を除く3ヶ所をまわってみた。モニタリングポストの測定値の単位はnGy/hであるが、県の公表値ではµSv/hに変換されているので、ここでの表記もそれにならってµSv/hとしている。
公表値:0.101µSv/h(15時10分)
RD1503測定値:0.15µSv/h(15時14分)


大子工務所内、建物の裏に設置されている可搬型モニタリングポスト。測定局とは違い、測定部の位置が地表から1m程度と低い。おかげですぐ近くで測定できる。測定値は常時表示されているが、ここの装置は読み取り窓の内部に水滴が付着していて読めなかった。
公表値:0.129µSv/h(16時30分)
RD1503測定値:0.18µSv/h(16時27分)


高萩市役所の一部が移転している総合福祉センターのすぐ横に設置。なぜか金網に入っていて、近づくには限界がある。それでも測定値は読み取り可能だ。この場所は立ち入りの制限もなく、誰でもアクセス可能な点は高く評価したい。ただし、読み取り窓にバックライトがないので、値が読めるのは昼間だけだろう。
公表値:0.181µSv/h(17時00分)
RD1503測定値:0.24µSv/h(16時57分)


北茨城市役所の正面玄関横に設置。こちらは金網はなし。だが、大子町と同じく読み取り窓に水滴が付着しており、値が読み取りにくい。下から覗き込むようにすれば読めなくはないが。ここも24時間アクセス可能。
福島第一原発に近いこともあってか、モニタリングポストの値は高め。それに応じるようにRD1503の測定値もやや高い。それにしても、予備調査を含め1ヶ月以上前からここを訪問しているが、いつも後ろに自転車が放置したままなのが気になる。なにか意味があるのだろうか。
可搬型モニタリングポストにおいても、RD1503のほうが大きめの値となる。かなり近くで測定しているので条件はほとんど変わらないはずなのだが。モニタリングポストの値が小さいところではRD1503の値も小さくなるので、相関はそれなりにありそうだ。
すべての測定箇所で、RD1503の値のほうが公表値よりも大きくなった。ネット上では「個人で測定してみたら国や自治体が発表している値よりもずっと大きかった」という記事をよく目にする。それと同じ結果だ。
ここで「国や自治体は嘘つきだ!」として終わってもよいのだが、研究所の看板を掲げているからにはそういうわけにもいかないだろう。ここで、なぜ測定値が大きくなるのか考えてみよう。
国や自治体の値が低い理由のひとつとして、ビルの屋上とか高い位置で測定されているためだというのがある。でも、少なくとも今回については当てはまらない。それは各測定局の写真で明らかだろう。空間線量測定局の測定部の高さは地上から2mから3mくらいだ。可搬型モニタリングポストでは1m程度しかなく、RD1503のほうがむしろ少し高い位置で測定している。
国や自治体はガンマ線しか測定していないから低い値が出るのだという話もある。少なくとも空間線量測定局はそうみたいだし、可搬型モニタリングポストもガンマ線のみっぽい。一方、RD1503はベータ線の測定が可能なので、そのぶんが上乗せされていてもおかしくない。
まあ、御託ばかり並べてもしかたがないので、空間線量測定局/可搬型モニタリングポストの値とRD1503の測定値をグラフ化してみよう。横軸が空間線量測定局/可搬型モニタリングポストの測定値、縦軸がRD1503の測定値だ。また、マゼンタ(◆)が空間線量測定局、明るいマゼンタ(◆)が可搬型モニタリングポストとの比較となる。突出している大沼はともかく、それ以外はまあまあ相関がありそうだ。

空間線量測定局/可搬型モニタリングポストとRD1503の比較
ここで、可搬型モニタリングポストの値だけ抽出して線形近似をとってみる。モニタリングポストのみとした理由は、測定場所がきわめて近く条件がよくそろっていることと、グラフの直線性がよさそうということだ。もっとも、データが3点しかないのでたまたまかもしれない。

可搬型モニタリングポストとRD1503の線形近似
そこそこきれいな直線が引ける。このことから、RD1503の直線性は良好といえるだろう。しかし、近似式の傾きが1ではないことと、y切片がゼロではないことが気になる。この原因はなんなのだろうか。
真っ先に思いつくのは、前述のようにRD1503がベータ線を拾っているということだ。たしかに、これで近似式の傾きが1ではないことは説明がつく。厳密には異なるだろうが、ガンマ線源とベータ線源の拡散具合が同じであるとするならば、両者の強度は比例関係にあるはずだからだ。だが、測定箇所は地上から1m程度離れており、地上からのベータ線は空中でほとんど減衰してしまうと考えるのが妥当である。したがって、ベータ線の影響とするのは無理があるといわざるを得ない。
さらに、y切片はベータ線で説明がつかない。y切片が示すものは、場所に関わらず常に一定のオフセットが存在するということである。この場合、疑われるのは測定器の汚染だが、その可能性は低いだろう。購入後、すぐにビニール袋に入れてそのままだからだ。もちろん、まったくないとはいえないが。
と、いろいろ考察してみたが、それよりもずっと簡単に近似式を説明できる方法がある。ただし、素人によるまったくの推論なので、以下はそのつもりで読んでもらいたい。
その説明とは、単にRD1503の内部で近似式のような演算がされているかもしれないということだ。その根拠は近似式そのものにある。
RD1503測定値 = 1.13×実際の線量 + 0.04
の両辺を実際の線量で割ると以下のように変形できる。
RD1503測定値/実際の線量 = 1.13 + 0.04/実際の線量
この両辺に100を掛けると、以下の式が得られる。
RD1503測定値/実際の線量 (%) = 113 + 4/実際の線量 (%)
もうちょっとだけ変形してみよう。
RD1503測定値/実際の線量 (%) = 100 + 13 + 4/実際の線量 (%)
ここで、右辺第2項と第3項に注目してもらいたい。最初に示した再現性(Reproducibility of indications)の式、15+6/D %にそっくりである。
すなわち、再現性の式かそれに近い演算が内部でなされていて、それゆえ誤差もこの式にしたがうのではないか。これが私の考えである。
では、なぜそのような演算が必要なのかということになるが、これは容易に想像がつく。RD1503は放射線量の絶対値を計測する機器ではなく、放射線量が高いエリアに入ったときに警告する機器である。放射線量を多少高めに見積もることはよくても、低めに見積もることは許されない。
そこで、測定値を15%程度水増しし、さらに小さな値をオフセットとして常時加えておくということは、決して間違った選択ではない。前者はGM管が本来持っているであろう±の誤差の-側を打ち消し、後者は低線量時の誤差を打ち消す効果がある。
以上、推論終わり。比例係数はともかく、オフセットがかませてあるのは、空間線量測定局の結果とあわせてほぼ間違いないような気がするのだが。
考察は抜きにして、測定結果から結論をまとめるとこんなところだろうか。
RD1503に限らず、この手の測定器で数値の絶対値を気にしても意味がないのはさんざんいわれていることである。それらと同じ結論になったが、当然といえば当然だ。
最後に、今回の議論は「茨城県の公表結果を信用する」というのが前提なので、そこから疑ってかかる場合はまったく意味がないということを改めて記しておく。そのへんは各自の判断ということで。